第17回 釣具業界の悩み

 

 私達は、自然と共生している業界です。過去には、化学物質の不法投棄により河川汚染・海洋汚染と釣りの文化が消滅するのではと、危惧した時代もありました。高度経済成長が落ち着き「ゆとり」が生まれ、釣りも漁からレジャーとして多くの国民に受け入れられてきました。
 しかし、レジャーの多様化と少子高齢化により釣り人口は確実に減少傾向にあります。また、釣り人の趣向も生エサからルアーへと推移するなど、釣りの多様性が生じています。ただ、この多様性には、業界に考えもしなかった事が次から次へと起こるきっかけとなってきました。
 環境問題は、釣り業界がもっとも気にして最善の方向へ導かねばならない、最も重要な問題です。しかし、今まで気にもしなかった事が重大な問題として次から次へともぐら叩きの如く噴出しています。
 現在対応しなければいけない問題とは

1.ナマリ     鉛汚染
【欧米で散弾のガン玉により鳥類への食害問題が発生】

2.外来魚    日本古来の動植物の保護
【日本古来の魚の減少が、ブラックバスに象徴される外来魚の食害にあるという理由から】

3.       絶滅鳥類保護政策
【無策の保護政策により異常に増殖した鵜が、放流鮎や釣り堀の魚を一晩で消滅胃袋へ、琵琶湖では、数万羽の鵜が確認されている】

4.糸・ハリ    野生鳥類やダイバーへの危害とゴミ公害
【一昔、コロガシの仕掛が絡んで危険なので禁止する河川が出ましたが鮎釣り師は、次に釣る時邪魔になるので、川に入って仕掛を排除してきました。しかし、ルアー釣りでは、湖底・河川への根掛かり放棄による投棄は、排除する釣師も極端に少なく根掛りしたら糸を切って又別の仕掛でと、一般の人から見たらゴミ投棄と同等に見られ始めた、糸も強くなり水中ではハリは錆びて無くなるが糸は腐らない】

5.撒き餌    職漁師が一本釣りする魚への影響
【県条例で撒き餌は禁止している県が沢山ありました。数年前に水産庁長官より解放できる所は開放しなさいと全国の県へ打診されました。なぜ禁止なのかというと撒き餌に使うアミ類が鯵・サバなどの腹に入ると臭みがでて商品価値が落ちるとして禁止している海区もあります。しかし、磯釣りの撒き餌効果は、小魚を増殖させ豊かな海にする効果のほうが高いと認められ現在は徐々に開放させる方向に進んでいます】

6.疑似餌    根掛りによる湖底のゴミ公害問題
【2006年富士五湖で知られる河口湖では、ワームの使用が禁止されました。ゴムで造られた疑似餌は腐らず水を含んで膨張し巨大なナマコのように湖底に沈んでいました。釣り人一人が平均3~4個のワームを根掛りで失うといいます。1日約200人の釣り人が失うワームの総数は尋常ではありません。富士五湖特有の溶岩湖の特色は溶岩穴明き岩、その穴がハリが引っかかり根掛りする根源なのです。今後、全国の釣り場に波及するのではと危惧されています】

7.ソーラス   テロ対策で輸出港の釣り人の出入を禁止
【アメリカに輸出する為には、輸出港がしっかり管理された港から出航されたという証明が無いとアメリカにおいて荷下ろしが出来ないのです。その結果従来釣り場であった場所がフェンスで囲まれ警備上の問題で一般の立ち入りを禁止されているのです。この処置により約100万人の釣り人が締め出されました】

8.廃業     店主の高齢化により廃業される釣具店が続出
【景気が良いと言われてるが、何故か充実感が無い世の中、釣りの変化、多様性についていけない、又、先の展望を見ると後継者も見あたらない等で廃業される釣具店が多くあります。こうした釣具店が増えることで、生産量も自ずと下げる、メーカーコストが上昇する、製品単価の上昇が釣り人の釣り離れにも繋がるのではとの危惧も有ります】

9.冷水病   鮎の病気で放流しても全滅する河川が全国に蔓延
【冷水病のワクチンが完成し、後は大量生産を可能とする技術開発と薬の認可待ちの状態。救いは、徐々に冷水病に耐性をもった鮎が出始めているということ。その鮎を交配して放流している広島県のある河川では、冷水病が3年続いて発生していないという事例もあります】

 環境を大切にしなければならない業界がゴミの現況となるものを販売している。釣り人自体の認識もありますが、自ずと規制しなければ国民はいよいよ釣りから離反するのではないだろうか。
 誰でも簡単に楽しめる釣り。釣りに行く前のワクワク感。釣り場で魚と対峙するドキドキ感。魚を持ち帰り家族や知人に自慢する優越感。こうした素晴らし幸福感を釣りで得られる釣りは素晴らしいものです。
 退職後は、釣りに没頭するのだと、終の棲家として釣り場近くに移り住む釣師もいるなんて、釣りに携わる者として心引き締まる仕事と認識します。
私が常に心がけている事は
【決して物事を歪めて見てはいけない】【安易に近道を走ってはいけない】【将来を見据えて恥じない経営を志さねばいけない】【子供たちに釣り文化を伝えねばいけない】【環境は最大の関心事で無いといけない】

2006年12月 太田博文